第152章 真実(後編)<壱>
汐は懐剣を喉元に翳し突き立てようとしたが、切っ先は一向に動かない。
数秒の時間が空いた後、汐はそっと懐剣を下ろした。
「馬鹿だなぁ、あたし」
汐は懐剣を握りしめたまま、呟くように言った。
「今のあたしは死ににくくなってるし、こんなことしても次のワダツミの子が現れるだけ。何の意味も無いのに・・・」
汐は乾いた笑い声を上げながら、暗くなっていく窓を見上げた。
今は何時だろう。ここに戻ってからどれくらい経っただろう。
そんなことを考えていた時。遠くから自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「汐!!」
まるで水の底から響いてくるような声に、汐は僅かに首を傾げた。視界の端に、赤と緑色のものが見えたような気がした。
だがそれは、瞬時に汐の元に駆け寄ると、汐の手から懐剣を奪い遠くに放り投げた。
(あー、ずいぶん遠くまで飛ぶんだなぁ)
汐がぼんやりとそんなことを考えていると、突然肩に強い衝撃が走った。
そして次の瞬間に、部屋中に怒鳴り声が響いた。