第151章 真実(前編)<肆>
その頃。
「う・・・」
汐がゆっくりと目を開けると、目の前には自分を心配そうにのぞき込んでいる悲鳴嶼の顔があった。
「気が付いたのか・・・!」
悲鳴嶼は安堵のあまり、両目から涙を溢れさせながら言った。
「ここは・・・」
「覚えていないか?君はあの後、足を滑らせて岩に頭を打ち付けてしまい、今の今まで気を失っていたのだ」
悲鳴嶼がそう説明すると、汐は思案するように視線を地面に向けた。
「気分はどうだ?どこか痛むか?」
悲鳴嶼が尋ねると、汐は首を横に振りながら「大丈夫」と静かに答えた。
「心配をかけてごめんなさい。それと、ありがとう」
汐はそういうと、すっと立ち上がり悲鳴嶼の横を通り過ぎた。
そんな汐に、悲鳴嶼は何か違和感を感じた。
困惑している悲鳴嶼に、汐は振り返らないまま口を開いた。
「あなたは自分の行動を恥じることも、悔やむ必要もない。あなたは人間として、するべきことをしただけだ」
汐はそれだけを告げると、そのまま振り返ることなくその場を後にした。
(なんだ・・・?)
悲鳴嶼は拭えない違和感を抱えながら、汐が去ったであろう方角を見つめていた。
(今のは本当に、大海原汐なのか・・・?まるで精神が別人にすり替わったような・・・)
しかしその違和感の正体がつかめず、彼はその場から暫く動けないでいたのだった。