第151章 真実(前編)<肆>
宇髄の脳裏に浮かぶのは、屈託のない笑顔を見せる汐の顔。そして吉原へ赴いたとき、玄海を思ってか時折寂しそうな顔をしていたことを思い出す。
自分を守り育ててくれた父親が、自分を監視、抹殺するために手元に置いていたと知ったらと思うと、胸が苦しくなった。
だが宇髄が最も胸を痛めたのは、この事ではなかった。
「そして玄海は、ワダツミの子の正体を突き止め、ここに記しておりました」
「・・・!」
宇髄の声に、あまねの目が微かに見開かれた。
「ワダツミの子は・・・!」
宇髄は痛みに耐えるように歯を食いしばりながらも、必死で言葉を紡いだ。
「人間では・・・、ありません」
そう言う宇髄の声は震え、握られた拳も震えていた。
時が止まったような静寂が、屋敷中を包み込んだ。
その静寂を破ったのは、あまねの声だった。
「人間ではないというのは、どういう事でしょうか」
宇髄は汗を一筋流した後、静かに語りだした。
「玄海の遺した文献には、ワダツミの子とは鬼とは異なる進化を辿った、鬼でも人でもない存在であると記されています」
宇髄は文献を開き、その頁をあまねに見せながら言った。
「その生態は鬼とは異なり、人は喰わず日の光でも死なない、治癒力は人より高いが再生はせず、人とほぼ変わりはないとの事。ですが、その声は人と鬼の脳に直接干渉し、場合によっては命を絶たせるなどの恐るべき行動を起こさせる引き金となります」
ですが、と宇髄は更につづけた。
「彼女達が何故、どのようにして生まれたのか。それは玄海でも突き止めることは出来なかったようです」
宇髄はそう言って、視線を畳に移した。