第21章 遭遇<弐>
「やっちゃん!」
「弟に何しやがる!」
女が金切り声を上げ、男に駆け寄る。もう一人の男が激昂し無惨に詰め寄る。
「あんた!し、死んでるよ・・・!やっちゃんが息してない・・・」
女が怯えた声を上げ、もう一人の男が無惨に殴り掛かろうとする。が、無惨は全く臆することもなく静かにその足を男の腹に叩き込んだ。
一瞬で男の巨体が宙へ舞い上がると、口から大量の血をまき散らす。そしてそのまま地面に叩きつけられ、二度と動かなくなった。
腰を抜かし怯え切っている女の下へ、無惨は静かに歩み寄る。そして視線を合わせてしゃがみ込むと、女の目をじっと見つめた。
「私の顔色は悪く見えるか。私の顔は青白いか?病弱に見えるか?長く生きられないように見えるか?死にそうに見えるか?」
――違う違うちがうチガウ。私は限りなく完璧に近い生物だ。
無惨の爪が青白く光りとがりだす。その爪を怯えて震える女の額に突き刺した。
「私の血を大量に与え続けられるとどうなると思う?人間の体は変貌の速度に耐え切れず、細胞が壊れる」
女の体がみるみるうちに青白くなったかと思うと、瞬時にして形が崩れ液状となって溶けだした。そしてそのまま黒煙を上げながら消滅する。
屍となった三人を見下ろしながら、無惨は指を鳴らした。すると、どこからともなく二つの影が音もなく舞い降りた。
「なんなりとお申し付けを」
左側に立っていた影が言うと、無惨は振り向かないまま淡々と告げた。
「耳に花札のような飾りがついた鬼狩りと青髪の娘、二つの頸を持ってこい。娘は声帯ごとだ。いいな」
「御意」
「仰せのままに」
二つの影は答えると、再び闇の中に姿を消した。
無惨の瞳が小刻みに震える。彼の忌まわしい記憶が一気によみがえったのだ。
かつて自分を瀕死にまで追い詰めた、耳飾りの剣士。そして彼らを献身的に支え、鬼である自分を惑わした青髪の女。
「あの耳飾り・・・青髪の・・・ワダツミの・・・」
無惨の憎しみのこもったつぶやきは、誰に聞かれることもなく消えていった。