第21章 遭遇<弐>
一方そのころ。
【月彦】という人間に成りすましていた鬼、鬼舞辻無惨は仕事があるといい妻子を先に帰す。だがそれは口実で、本当の目的は別にあった。
先ほど自分の名を呼んだ少年。それからそのあとで見かけた青髪の少女。その二人の行き先を聞くためだ。
そんな時、前方から三人にの人間が歩いてくる。そのうち一人は女で、二人は男。そのうちの一人はかなり酔っているのか千鳥足だ。
その男の腕が無惨の体に当たる。男は手を抑えると、無惨を見上げながら口を開いた。
「痛っ。なんだてめぇ~」
呂律の回っていない口調で咎めるが、無惨は小さく「すみません」とだけ告げると足早に立ち去ろうとする。その態度が気に喰わなかったのか、男は彼の肩をつかみ声を荒げた。
「おい、待てよ!」
「申し訳ないが、急いでおりますので」
そんな彼に、無惨は再び淡々と答える。男も堪忍袋の緒が切れたのか、無惨に絡み始めた。
「おいおい。ずいぶんいい服着てやがるなお前。気にらねえぜ。青白い顔しやがってよ。今にも死にそうだなぁ~」
この言葉が耳に入った瞬間、無惨の目が見開かれる。血のような真っ赤な瞳孔が小刻みに震えだす。そのことに気づくことなく、男はさらに煽りだすが、その刹那。
無惨の拳が、男の顔面を砕きつぶした。壁に真紅が飛び散る。