第148章 真実(前編)<壱>
「すげぇ・・・」
玄弥は呆然とした表情のまま、汐の歌に聞き入っていた。
一方炭治郎は、歌を奏でる汐から目を離すことができなかった。
歌だけではなく、汐自身の美しさに。
顔が熱くなり、心臓は早鐘のように打ち鳴らされていた。
やがて汐が歌い終わると、皆はやる気を取り戻したのか意気揚々とした様子で訓練へと向かった。
その様子を、悲鳴嶼は木の陰から伺っていた。
(あれが大海原の、ワダツミの子の歌か・・・。いや・・・)
悲鳴嶼もワダツミの子の歌の力は目の当たりにしたことがあった。
鬼舞辻無惨が警戒する、人や鬼に影響を与える歌。
だが今奏でられた歌は、純粋な汐自身の優しさが込められたものだった。
言葉遣いや態度はお世辞にも良いとは言えないが、誰かの為に戦うことができる心根を持つ少女だということを。
その事を、悲鳴嶼は理解していた。理解はしていた。
だが、それでも一度凝り固まった考えを覆すことは難しい。
そんな沈痛な想いを抱いたまま、悲鳴嶼はその場を後にした。