第21章 遭遇<弐>
「そのまま抑えてて!!」
それから素早く男に駆け寄ると、目にもとまらぬ速さで両腕を縛り上げた。男は苦しそうに鉢巻きを外そうとするが、水にぬれた鉢巻きの強度になすすべもない。
そんな彼女を見て、炭治郎はほっとした顔をしたが、すぐさまもう一度男を抑える。
「ここは俺に任せて、汐はこの人の奥さんの手当てを頼む!」
「わかったわ!」
汐はうなずくと、蹲っている女性の肩の布を、持っていた包帯で縛り上げる。それから昔玄海に教わった出血を止めるツボを強く抑えた。
痛みに顔をゆがませる彼女に、汐は凛とした声で言った。
「気をしっかり持って!あんたの旦那は必ず何とかするから!」
汐の声に、女性の表情が少しだけ和らぐ。すると、騒ぎを聞きつけたのか数人の警察官が彼らの前に現れた。
警察官たちは炭治郎に離れるように促すが、炭治郎は首を横に振った。自分でなければ【この人】を抑えられない、と。
だが警官たちは聞き入れず、無理やり炭治郎を引きはがそうとする。
「やめて!その人たちから離れて!」
汐は声を上げ、警官たちの間に入りそれを阻む。汐の真っ青な髪に警官たちは一瞬たじろいだが、汐に食って掛かった。
「なんだ貴様は!邪魔をするな!」
「邪魔なのはあんたたちよ!いいから炭治郎の言う通り拘束具を持ってきなさい!!【この人】に望まない罪を犯させないで!!!」
汐の凛とした声があたりに響き渡る。その声は、人ごみの中に紛れていた【彼ら】にも聞こえた。
業を煮やした一人の警官が、汐に向かって警棒を振り上げる。炭治郎が息をのみ、汐がぎゅっと目をつぶったその時だった。