第21章 遭遇<弐>
「ちょっとどいて!通して!!」
汐は立ちふさがる人を押しのけながら前に出る。すると、急に人の波が消え開けた場所に出た。
そこには肩から血を流している女性と、何かに馬乗りになっている炭治郎。その下にいたのは口に布を詰められうめいている一人の男。
だが、その眼は完全に正気を失っている。
(鬼!!)
鬼の気配を感じた汐は、すぐさま刀に手をかける。が、炭治郎はそれを見て声を荒げた。
「待ってくれ汐!この人はたった今鬼にされたばかりで誰も殺していないんだ!!刀を収めてくれ!!頼む!!」
炭治郎の声に汐の手が止まる。だが、彼は今押さえつけているだけで精いっぱいのようで、いつ鬼に力負けをしてもおかしくはない。
そして周りには大勢の人間がいる。このまま放っておけば、新たな犠牲者が出るかもしれない。
それに、その男はかなり苦しんでいた。その姿が、あの日の彼女の養父、玄海と重なる。
――おやっさん・・・!
あの時はこれ以上苦しむ彼を見ていられなくて、自分を殺して刃を振るった。これ以上苦しむくらいなら、いっそのこと楽にしてあげるのも優しさの一つかもしれない。
汐の手が震える。
「汐!!」
炭治郎の悲鳴に似た声が耳に入った瞬間、汐は動いた。刀を収め、頭の鉢巻きを外すと、持っていた水をかけた。