第145章 本音<弐>
汐は意識を飛ばさないように必死で耐えながら、口を開いた。
「如是我聞( にょぜがもん )一時仏在(いちじぶつざい )舎衛国(しゃえこく)!!」
汐のよく通る声は、滝の轟音にもかき消されることなく遠くへ響いていく。
「祇樹給孤独園(ぎじゅきっこどくおん)与大比丘衆(よだいびくしゅう)千二百五十人倶(せんにひゃくごじゅうにんく)!!」
すると汐の声に意識が引き戻されたのか、周りの隊士達が声を張り上げだした。
隣にいた伊之助も、汐の声を聞いて必死で口を動かした。
その声は、離れていた炭治郎にも届いていた。炭治郎も、凄まじい水圧の中を声が枯れる勢いで念仏を唱え続けた。
だがその数分後。
隣にいた伊之助から声が全く聞こえなくなり、不審に思った汐は必死で顔を動かした。
伊之助は指先と首のあたりが真っ青に染まっていた。
「伊之助が死んでるぅううう!!誰かァアアア!!」
汐が声を張り上げると、先に滝を出ていた隊士達が伊之助を引きずっていった。
それから数分後。
「さ・・・さむい・・・、ううん、もう身体の感覚がなくなりかけてるわ・・・。久しぶりに水に入ると、意外ときついものね・・・」
汐は全身を陶器のように白くしながら、滝から上がり皆と同じように岩に肌を寄せた。
日光が当たった岩は、まるで湯たんぽのように汐の身体を温める。
「よ、よお。お前もここに居たんだな・・・」
何処からか声がして顔を向ければ、そこにはどこかで見覚えのある顔があった。