第20章 遭遇<壱>
どんぶりは地面に落ちて砕け、うどんは見るも無残な姿になってしまった。
「わ!ちょっと炭治郎!なにやってんの!?」
食べ物を粗末にするなんて!と、汐が顔をしかめて彼を見上げると、その表情を見て汐も目を見開く。
炭治郎は目をこれ以上ない程見開き、息は荒く、顔は青ざめ汗が噴き出している。明らかに様子がおかしい。
「炭治郎?ねえ、いったいどうしたの?炭治郎ってば!!」
汐が羽織を引っ張っても、呼びかけても炭治郎は答えない。それどころか、置いてあった刀を手に取ると、何かに取り憑かれたように町へ向かって走り出していた。
「炭治郎!?待って!!」
このまま炭治郎を放っておくわけにはいかない。汐はどんぶりをわきに置くと、舟をこいでいる禰豆子をそっと寝かせる。
「おじさんごめん!ちょっと禰豆子見てて!!」
汐は切羽詰まった声でそう告げると、炭治郎を追って駆け出した。
(炭治郎・・・!どこ!?どこにいるの!?)
先ほどの彼の様子は明らかに普通ではなかった。それを思い出すと嫌な予感が汐の全身を支配していく。
だが、前にはたくさんの人が立ちはだかり思うように前に進めない。早く炭治郎を見つけなければいけないのに。焦る心とは裏腹に、足は止められてしまう。
「炭治郎!!」
人ごみの中で汐は叫ぶ。その声は無情にもかき消されてしまうが、汐は何度も彼の名を呼んだ。その時だった。
耳をつんざくような金切り声が、汐の耳を突き刺した。