第20章 遭遇<壱>
興奮する汐を落ち着けた後、二人はうどんができるまでこれまでのことを話し合った。
炭治郎が赴いた場所では、16歳になる娘ばかり狙う鬼が出没し、それを炭治郎と禰豆子の二人で撃退したということだった。
汐も、体の一部を人形に変化させる鬼や、鏡を使った罠を張った鬼を退治したことを話した。そしていずれも、鬼舞辻無惨の名を出すと、皆激しくおびえていたことを。
「だから奴の事や禰豆子を人間に戻す方法はわからなかった。ごめんね、炭治郎」
「いいや。汐のせいじゃない。むしろ、礼を言わないと。俺たちの為にいろいろ聞いてくれてありがとう」
「そんなたいそうなもんじゃないわ。鬼舞辻にはあたしにも因縁がある。おやっさんを鬼にした奴は、絶対に許さない」
そう言って汐は拳を強く握る。わずかながら殺意の匂いがこぼれる彼女に、炭治郎は顔をしかめたがそれは自分も同じだった。
そうしているうちに、禰豆子は炭治郎の肩に寄りかかり寝息を立てている。そんな彼女を、炭治郎は心からの慈しみの眼を向ける。
そんな二人を顔をほころばせながら、汐は口を開いた。
「禰豆子、よっぽど疲れたのね。確か、ケガをしたら眠って体力を回復させるのよね」
「鱗滝さんはそう言ってたけれど、それはきっと正しい。現に、任務で禰豆子がけがをした時もしばらく眠っていたから」
「ふふ。しばらく寝かせてあげましょ」
汐がそう言うと、うどん屋の店主が山かけうどんを二つ汐と炭治郎に手渡した。アツアツの湯気が立ち上るどんぶりだ。
「わあ、おいしそう」
どんぶりの中には薄茶色の汁の中に浮いたうどんに、雪のように真っ白なとろろがかけられ、さらに月のような黄色い卵がかわいらしく乗っかっていた。
汐と炭治郎はいただきますと小さくつぶやき、まずは汁をすする。ちょうどいい塩梅の味と香りが、二人の味覚と嗅覚をくすぐり、体がふわりと温かくなる。
(おいしい!)
汐はその味に満足し、左手の端で麺をすすろうとした瞬間。
――炭治郎が突然、ゆっくりと立ち上がった。持っていたどんぶりをそのまま地面に落として。