第144章 本音<壱>
「あの、実はですね。汐さんをここまで運んでくださったのは、風柱様なんです」
「はぁ!?」
告げられた言葉に、汐は思わず声を張り上げた。
「あいつが?嘘でしょ?あんな人を殴ることに一切躊躇いがない奴が?」
「あの、それは汐さんが言えることじゃ・・・」
すみはそう言いかけたが、いろいろと面倒ごとが起こりそうな気がして口を閉じた。
「数刻ほど前、屋敷の外でしのぶ様を呼ぶ声がして、今お留守だから私達が出たんです」
すみはそのことを思い出しながら語った。
外からしのぶを呼ぶ怒鳴り声が聞こえ、慌てて出てみれば、そこには汐を抱えた実弥が立っていた。
しのぶは不在だったが、汐が怪我をしていると分かった三人娘たちは、慌ててベッドを用意した。
実弥は汐をそっとベッドに寝かせると、そのまま何も言わずに帰ったという。
そして、汐の傷は応急手当てがされていた。
「まさか、あいつがそんな・・・」
汐にとって実弥はいろいろと相いれない存在であり、実弥もまたそのはずだ。
にわかには信じがたいが、すみが嘘をつくはずもなく、"目"も嘘はついていなかった。
「まあそれはともかく、あたしまたここに来ちゃったのね」
汐が自嘲的に笑うと、「本当ですよ!!」という大声が聞こえた。
汐が振り返ると、アオイが腕を組んで仁王立ちをしていた。