第144章 本音<壱>
汐は締め付けられる感覚に顔を微かに歪ませたが、視線は真っ直ぐに実弥を射抜いていた。
「テ・・メェ・・・!!」
実弥は怒りのあまり言葉を旨く紡ぐことができなかった。全身にマグマのような感情が流れ、汐を掴む手は震えていた。
汐の目を見て、実弥は一つ確信したことがあった。
――自分は心底、この女が気に喰わないということ。
初めて会った時も、鬼を庇う不届き者だということで、実弥は汐にいい印象を持っていなかった。
だが、彼が汐を嫌うのはそれだけではなかった。
似ているのだ。汐と昔の自分が。
汐の過去は風の噂で少しだけ聞いていた。鬼と化した自分の父親を手にかけ、それがきっかけで鬼殺隊に入隊したということ。
その過去も踏まえて、汐は自分と似ている気がした。そのせいかは分からないが、頭では汐が悪いわけではないと分かっていても、気持ちの方がついて行かないのだ。
しかし、今自分の目の前にいる少女は、年相応に全く似つかわしくない目をしていた。
全てを見透かすような、鋭い目。自分の心の中をまさぐられるような、嫌悪感だった。
「あんたの家庭の事情なんか知ったことじゃないし、あんたが玄弥に対して何を思っていようが全く興味はない」
汐は胸ぐらをつかんでいる腕を、両手で外しながら告げた。
「だけど、あたしの友達をこれ以上傷つけるつもりなら許さない。柱だろうが何だろうが関係ない」
「ほぉ・・・。お前が許さなかったら、何だってんだァ?」
「あたしの目的は最初から何も変わっていない。あんたを完膚なきまでに叩きのめすこと。でも、今のあんたなら存外簡単そうね」
汐はふんと鼻を鳴らすと、隙を見て左足を思い切り実弥の鳩尾へと叩き込んだ。