第144章 本音<壱>
実弥はギリギリでそれを躱すと、汐から間合いを取った。
「玄弥と、自分自身と向き合うこともできない臆病者に、私が負けるとでも思うか!」
「抜かせ、クソガキがァァァ!!!」
汐の鋭い声と、実弥の怒りに満ちた声が重なり、凄まじい衝撃が道場中に駆け巡った。
実弥の拳を汐は紙一重ですべて躱し、死角から連続攻撃を叩き込む。
しかし実弥も、伊達に柱を名乗っているわけではない。汐の攻撃を躱し、受け流す。
無言の殴り合いが、数秒、数分間続いた。
だが、実弥の顔には驚愕が張り付いていた。
(なんだァ・・・、こいつの打撃の重さは・・・!?)
汐の攻撃を受け流す実弥だが、その一撃一撃が非常に重く、今まで相手をしてきた隊士とは比べ物にならない。
否、とても女の力ではなかった。
汐が蜜璃の継子であり、時折伊黒が指導をしていることは知っていた。協力者がいたとはいえ、上弦の鬼と戦い、討伐していることも知っている。
柱稽古でもここまでくるということは、少なくとも他の隊士よりは抜きんでいる事はわかっていた。
だがそれでも、ここまで実弥をひやりとさせる実力ではなかったはずだ。
(どうなってやがる・・・!?いったい何なんだ、この女は・・・!?)
実弥が見せた微かな焦りを、汐は見逃さなかった。
実弥の正拳を躱し、間合いに入った汐は、左腕を大きく振り上げ顎に拳を叩きつけた。
「ガッ・・・!!」
決して軽くはないはずの実弥の身体が、衝撃のあまり浮き上がる。
だが、実弥はその体制のまま汐の腕を掴むと、思い切り投げ飛ばした。
汐の身体が羽根の様に吹き飛び、体勢を崩した隙に実弥の拳が汐を襲った。