第144章 本音<壱>
「テメェ・・・、何でここに居やがんだァ?」
暗がりの中にたたずむ汐に、実弥は鋭い言葉を浴びせた。だが、汐は何も答えず実弥を見据えたままだ。
「訓練は中止と言ったはずだ。さっさとここから出て行け」
実弥が凄むが汐は一言も発せず、実弥を見つめているだけだ。
「聞こえねえのか?俺は今すこぶる機嫌が悪ィ。ぶっ殺されたくなければとっとと消えろォ」
しかしそれでも、汐は石のように動かない。段々と溜まってく怒りを吐き出すように、実弥は口を開いた。
「テメェ・・・、そんなに死にてえようだなァ」
実弥は一歩、汐の方に足を踏み出したその時。汐の口がゆっくりと開いた。
「玄弥からおおよその話は聞いているわ」
「あァ?」
言葉を発した汐に、実弥の足が止まった。
「あんた、鬼になった母親を殺したそうね」
「・・・・」
実弥の目が鋭くなり、汐に突き刺すような視線を向けた。しかし汐は、一切怯むことなく口を開く。
「それから一切、玄弥とは接触していなかったのね。大方、玄弥こちら側を見せたくなかったか、自分の姿を見られたくなかったか、いや、そのどっちもか」
「何が言いたい」
実弥がそう言うと、汐は顔を上げて嘲るような視線を向けた。
「じゃあ、手っ取り早く、馬鹿でも分かりやすくいってあげるわ」
――いつまでも玄弥(かぞく)から逃げてんじゃねぇよ!!
「!!」
その言葉を聞いた瞬間、実弥は汐の胸ぐらを乱暴に掴んでいた。