第143章 譲れないもの<肆>
「うわあああああ!!!」
炭治郎が障子を破って出てくるのと同時に、善逸の叫び声が響き渡った。
実弥に痛めつけられた隊士達は、慌てて地面に伏せ死んだふりをした。
「あれっ?炭治郎か?」
善逸は初め、実弥が飛び出してきたのかと思ったが、よく見るとそこにいたのは炭治郎とどこかで見覚えのある少年だった。
(えええ、殺されるぞ炭治郎。何してんだ、建物ぶっ壊して・・・)
善逸が青ざめていると、炭治郎は建物の中に向かって「やめてください!」と叫んでいた。
すると今度は、捻じ曲がった禍々しい音が近づいてきた。
そして建物の中から現れたのは、全身に殺意を纏った実弥だった。
(うわあああああ!!おっさんが暴れてんのね!!稽古場じゃない所でもボコられるのかよ!!そう言うのは汐ちゃんだけでお腹いっぱいなんだってば!!)
善逸は青い顔を更に青くして涙を流した。
「どういうつもりですか!!」
そんな善逸の想いなど露知らず、炭治郎は抗議の眼差しを実弥に向けた。
「玄弥を殺す気か!」
「殺しゃしねぇよォ。殺すのは簡単だが、隊律違反だしよォ」
炭治郎の言葉に実弥は、淡々とそう答えた。
「再起不能にすんだよォ。ただしなァ、今すぐ鬼殺隊を辞めるなら許してやる」
あまりにも一方的な物言いに、流石の炭治郎も堪忍袋の緒が切れた。