第143章 譲れないもの<肆>
しかし、
「心底どうでもいいわ。失せろォ」
まるで虫でも追い払うように手を動かしながら、実弥はそう言い放った。
あまりにも冷たい言葉に、玄弥は勿論炭治郎も言葉を失った。
「そんな・・・、俺・・・」
玄弥の声は、今にも泣きそうなくらいに震えていた。
その声を聞くことなく、実弥はその場を立ち去るはずだった。
玄弥の次の言葉を聞くまでは。
「俺・・・、鬼を喰ってまで・・・、戦ってきたんだぜ・・・」
その瞬間、実弥は足を止めて反射的に振り返った。
目をこれ以上ない程見開き、血走った目を向けながら。
「何だとォ?今、何つった?」
実弥から感じるのは、怒りを通り越した殺意にも似た感情。
空気を斬り裂くようなそれは、炭治郎の身体も震わせた。
「テメェ・・・、鬼を・・・喰っただとォ?」
その言葉を言い終えた瞬間、実弥の姿が消えた。
(消え・・・?)
「玄弥!!」
炭治郎の鋭い声が飛び、次に玄弥が認識したのは。
自分の両目に向かって躊躇いもなく、指を伸ばす実弥だった。
だが、玄弥の両目は炭治郎の介入によって突かれることはなかった。その代わりに、玄弥の頬に一筋の傷を残した。
そのまま炭治郎は玄弥を抱えたまま、障子を突き破って外へと飛び出した。