第143章 譲れないもの<肆>
「話したいことがあるんだ・・・」
玄弥は早鐘のように鳴る心臓を抑えながら、絞り出すように言った。
だが、
「しつけぇんだよ。俺には弟なんていねェ。いい加減にしねぇと、ぶち殺すぞォ」
怒りが籠った低い声が容赦なく突き刺し、玄弥は青ざめた顔で、何も言うことなく俯いてしまった。
それを見た炭治郎は、自分とは全く異なる兄弟喧嘩に恐ろしさを感じた。
実弥はつづけた。
「馴れ馴れしく話しかけてんじゃアねぇぞ。それからテメェは見た所、何の才能もねぇから鬼殺隊辞めろォ」
刃のような言葉が容赦なく飛ぶが、炭治郎は微かに漂う匂いに少し違和感を感じた、
「呼吸も使えないような奴が、剣士を名乗ってんじゃねぇ」
「そんな・・・」
それっきり無言になった玄弥に、実弥は背を向け立ち去ろうとした。
「まっ・・・、待ってくれよ兄貴!!」
そんな彼の背中に、玄弥は必死で声をかける。
「ずっと俺は兄貴に謝りたくて・・・」
自分が嘗て、事情も知らずに兄を罵ってしまった事。大切な家族を傷つけてしまった事。
その事を謝りたくて、玄弥はここまで戦ってきた。
それを少しだがわかっていた炭治郎は、祈る気持ちで成り行きを見守った。