第143章 譲れないもの<肆>
訓練に加わった炭治郎は、善逸が逃げ出したくなる理由を身をもって知った。
反吐を吐き、気を失うまで一切の休憩はなし。そして汐同様、実弥は炭治郎に対しての風当たりが強かった。
下手をすれば、大怪我をして治療に逆戻りしてしまうほどの。
そしてその日、炭治郎は顔中を腫れあがらせて訓練を終えた。
だが、炭治郎はこれだけで済んでよかったのかもしれない。
汐はついさっき、訓練中に頭を打ち気を失ってしまった。
その為炭治郎は、痛む傷を押して汐を部屋に運んで休ませていた。
(全く、汐も相変わらず無茶をするなあ。俺たちはともかく、汐は女の子なんだから顔に傷なんて作っちゃいけないのに)
そんなことになったら、汐が想っている人が悲しむだろう、と炭治郎が考えた瞬間、胸に奇妙な痛みを感じた。
(まただ、この痛み)
その痛みは、炭治郎が汐の事を考える度に起きていた。特に、汐に想い人がいるかもしれないと思った日から、度々起こるようになった。
そしてなぜか、身体の痛みよりも気になった。
どうしてこんな痛みを感じるのだろう、と考えながら歩いていると、
「待ってくれよ、兄貴!」
少し先で聞き覚えのある声が響いた。
(玄弥の声!)
匂いを辿りながら進むと、玄弥が廊下の真ん中に立っているのが見えた。
その前には、実弥の姿があった。