第2章 嵐の前の静けさ<壱>
「実は俺の病の進行を抑える薬を作っているやつが見つかった」
「え!?それ、本当なの!?」
突然のことに、汐は驚きのあまり目を見開いた。玄海は続ける。
「ああ。この村の先に港町があるのはわかってるな?そこで待ち合わせをしたんだが、急用で来られなくなったとぬかしやがった」」
「じゃああたしがその薬をもらってくればいいんだね?」
汐の言葉に、玄海は深くうなずく。
「じゃあ、今から行った方がいいんじゃ・・・」
「いや、それは駄目だ。今から行ったんじゃあ、帰りが夜になっちまう。夜には鬼が出るんだ。だから絶対に夜は村から出るんじゃねえ」
そう言う玄海の顔つきは、冗談など言えるようなものではない真剣そのものであった。
――夜には鬼が出る。だから夜に村の外には絶対に出るな。
汐が小さい頃からずっと聞かされていた言葉だった。
彼女はその言葉を半信半疑で聞いていた。
だから、気づくことができなかった。
――大丈夫だよ、おやっさん。鬼なんていないんだから・・・
そう思っていたことを後悔する日がこようとは・・・