第2章 嵐の前の静けさ<壱>
「さて、と」食事を終えた玄海は、片づけをする汐の背中を見ながら口を開いた。
「夜になったら呼吸法と型の復習だ。それまでの間、いつもの課題をこなすこと。いいな?飽きたからって海に潜って怠けるんじゃねえぞ。お前は昔から、溜まるとすぐに海に潜るからな」
「わかってるよ!まったく、昼間は動けないのに口だけはよく動くんだから・・・」
「全部聞こえてんぞ。それとも、課題を2倍に増やすかァ?」
「・・・すみませんでした」
この男は冗談に聞こえない冗談を言うから質が悪い。もっとも、課題を増やすというのは、冗談ではないかもしれない。いや、きっとそうではないだろう。
冷や汗をかきつつ、汐はうなずくしかなかった。
――大海原玄海が侵されている奇病。それは『日の光にあたる事ができなくなる』という物である。少しでも日の光にあたってしまうと、皮膚が焼けるように痛むのだ。
彼がいつ、この病にかかったのかは定かではない。だが、どんな名医に見せても治療法はおろか、原因すらわからなかったのだ。
そしてその病が進行したせいなのかは定かではないが、彼は生もの以外を口にできなくなっていた。
しかし彼は全く悲観することはなかった。昼間は家で過ごし、夜になれば外に出て村人たちと交流したり汐に稽古をつけたりもする。曇りや雨の日など、日の光が差さないときは昼間でも動けるため、外出したりもできる。
村人たちも少し変わっているが、悪い人間ではないと認識していた。
「ああ、そうだ。汐。お前に一つ話しておきたいことがある」
そう言って玄海は、棚にしまっていた封書を一枚取り出した。