第143章 譲れないもの<肆>
「二人共選べェ。訓練に戻るか俺に殺されるか」
「ギャア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」
善逸はとんでもなく汚い高音で叫ぶと、炭治郎にしがみ付いて泣きわめいた。
そのあまりの五月蠅さに、実弥は善逸に手刀を入れて黙らせた。
「運べ」
「あ、はい」
炭治郎は素直に返事をすると、気絶している善逸を申し訳なさそうな顔で背負って歩きだした。
「ちょっと、あんた。こいつとあたしを一緒にしないでよ。あたしはあんたをぶちのめすまで逃げるつもりはないから」
汐が実弥を睨みつけると、実弥は小さく鼻を鳴らしながら顔をしかめた。
「あ、あの、不死川さん」
険悪な空気を察したのかそうでないのか、炭治郎の明るい声が響いた。
「ご無沙汰しています。今日から訓練に参加させてもらいます、よろしくお願いします!」
炭治郎の声に実弥は足を止めると、ぎろりと睨みつけながら言った。
「調子乗んなよォ、俺はテメェを認めてねぇからなァ」
「全然大丈夫です!」
実弥が不快感を隠しもせずそう言うと、炭治郎も負けじと曇りなき目を向けて言った。
「俺も貴方を認めてないので!禰豆子刺したんで!」
炭治郎は満面の笑みでそう言うと、善逸を背負ったまま走り出した。
「いい度胸だ・・・」
こめかみを痙攣させながらそう呟く実弥を見て、汐は思わず吹きだした。
「ブフーッ、クックック・・・、綺麗に返されてやーんの」
笑いをこらえながら屋敷に戻り、残された実弥はこれ以上ない程の苛立ちを募らせていた。