第143章 譲れないもの<肆>
「てめぇええ・・・!何自分だけ逃げてんだぁ・・・!」
そこには、顔に血の跡をつけた汐が、身の毛がよだつような恐ろしい顔で善逸の首を絞めていた。
「ぎゃあああああ!!」
「うぎゃああああ!!」
そのあまりの恐ろしさに、善逸だけではなく炭治郎も涙を流しながら叫んだ。
「って、なんであんたまで驚いてんのよ!!失礼ね!!」
汐は善逸と炭治郎に同時に平手打ちを喰らわせた。
「あら炭治郎。やっとここまで来たのねぇ。待ちくたびれたわよ」
「い、いやいやいや!汐!血だらけだぞ大丈夫か!?」
顔を引き攣らせる炭治郎に、汐はあっけらかんとした表情で答えた。
「ああもう大丈夫、血は止まってるわ。ここじゃあ怪我人なんて飽きる程出るから、薬の確保が大変だけどね。ったく、こうなることを見越して、もうちょっと多めに置いておけっての」
汐が不満げに口を尖らせると、突如頭を誰かに鷲掴みにされた。
「何なら、薬なんざ必要ねえ状態にしてやろうか?」
地を這うような声が響き、善逸は声なき悲鳴を上げ、炭治郎も表情を強張らせる。
そこには顔中に青筋を立てた実弥が、汐と炭治郎の頭を掴んでいた。