第143章 譲れないもの<肆>
汐達がそんな調子な頃。
伊黒邸にいた炭治郎は、四日目にしてようやく訓練を終えることができた。
しかし、蜜璃の手紙で炭治郎と仲良くしていることを知った伊黒は、炭治郎を蛇蝎の如く嫌い辛辣な言葉を浴びせ続けた。
「じゃあな。さっさと死ね、ゴミカス。馴れ馴れしく甘露寺と喋るな」
炭治郎は伊黒に最後まで嫌われていた事に涙しつつも、屋敷を後にした。
鎹鴉に案内されながら、炭治郎は次の柱、実弥の屋敷を目指す。
曲がり角を右に曲がった瞬間、炭治郎の目の前に黄色い何かが音もなく姿を現した。
「うわあああああ!!!」
炭治郎と鴉が悲鳴を上げるが、それが顔中涙と鼻水塗れの善逸だと認識するのに時間はかからなかった。
「善逸!?」
炭治郎が名を呼ぶと、善逸は炭治郎に縋りつき堰を切ったように叫び出した。
「ににににに、逃がしてくれェェェ。炭治郎炭治郎何卒!!」
「逃がす?何から?」
「ややや、やっとここまで逃げてきたんだ。塀を這ってきたんだ。気配を消してヤモリのように、命にかかわる、殺されるっ」
炭治郎が尋ねるが善逸はそれに答えず、ただ自分の状況らしきものを支離滅裂に叫んだ。
だが、背後から恐ろしい気配を感じ、善逸は勿論炭治郎も震えあがった。