第143章 譲れないもの<肆>
翌朝。目を覚ました汐はすぐに洗面所へと向かった。
そして、鏡で自分の顔を見てほっと胸をなでおろす。
(腫れはすっかり引いたみたい。よかった)
だが、安心する反面汐は少しだけ不安を感じていた。
昨日は一目見てわかる程腫れていた顔が、今はすっかり元通りになっていた。
傷跡すら、うっすらと残る程だ。
(なんだか最近、傷の治りが早いような気がするわ。悪いことじゃないとは思うけど、あたしも段々人間離れしていくみたいでちょっと気持ち悪いかも・・・)
汐は傷跡を指でなぞりながら、小さく顔をしかめた。
(まあ、今更考えてもしょうがないわね。あたしはできることをやるだけよ。今日こそ、あの野郎のスカした面にぶちかましてやるわ!!)
汐は両手で顔を打ち鳴らして気合を入れると、洗面所を出て訓練場へ向かった。
その日の訓練も、相も変わらず凄まじいものだった。嵐のような実弥の太刀筋に、隊士達は吹き飛び、善逸は悲鳴を上げ、汐は殺意を剥き出しにしながら挑んだ。
そんな中、伊之助は実弥に一撃当てられたことを認められ、次の訓練へ行く許可が出た。
自慢げにする伊之助に腹立たしさを覚えながらも、汐は何度も嵐の中へ突っ込んでいく。
そして反吐を吐き、失神するまでその時間は続くのだった。