第142章 譲れないもの<参>
夕餉が終わり、汐は厠で用を足した後鏡を見た。
顔は想像よりもだいぶ腫れており、所々青くなっている。
(うげぇーっ、思ったより腫れてるじゃない。あの野郎、本当に容赦ないんだから)
鏡に映った自分の顔を見ながら、汐は顔をしかめた。
伊黒との訓練とでさえ、ここまでは腫れなかった。
(傷跡が残ったらどうしよう。まあ傷はいくつもあるからいいけど、せめて炭治郎に心配かけないようにはしたいなぁ・・・)
汐は目を閉じて、伊黒の元にいるであろう炭治郎の事を思い浮かべた。
炭治郎も、あの恐ろしい訓練を受けてるかと思うと、少なからず同情する。
(炭治郎は優しいから、きっと縛り付けられた連中の事を気遣って、剣を思うように振るえなかったりして)
炭治郎の性格をよく知っていた汐は、苦々し気に笑みを浮かべた。
(さぁて、明日も早いし、傷も痛いしさっさと休もう)
汐は苛々とした気分を払しょくするように首を振ると、厠を出て部屋へと向かった。
その時だった。
「待ってくれよ、兄貴!話を聞いてくれ!!」
廊下の向こうから声がして、汐は思わず足を止めた。
「この声は、玄弥?」
汐は音を立てないようにそっと近づき、そっと覗きこんだ。
そこには、玄弥と実弥の姿があった。