第20章 遭遇<壱>
とはいえ、これほどたくさんの人に囲まれているとまたさっきの様に掏りに遭われちゃかなわない上に、香水や整髪料などの臭いや人の体臭などが混ざり合い汐は軽い人酔いを起こしてしまった。
普通の嗅覚である彼女がこれでは、きっと炭治郎だったら失神してしまうだろう。
そんなことを考えていると、いつの間にか町からは離れ街灯がぽつりぽつりとある場所に出た。人の波から解放された汐は、ほっと息をつく。
大して動いていないはずなのに、汐は疲労感に襲われていた。おそらく慣れない場所で慣れないことをしたため、頭が付いていかなかったのだろう。
ふと、前を見ると小さな屋台が見える。目を凝らしてみると、それには【うどん】と書いてある。
それを見た瞬間、汐のおなかの虫が寂しげに鳴いた。なんだか最近、食べ物を売る店を見るたびにおなかがすいているような気がする。
汐はふらふらと身体を揺らしながら、屋台にたどり着く。そこでは禿げ頭の店主が一人、煙管をふかしていた。
「あの~すみません」
汐が声をかけると、店主は少し面倒くさそうに顔を上げた。屋台にはいろいろなうどんの種類が書いてあるが、汐は一番先に目のついたうどんの名を告げた。
「「山かけうどんください・・・」」
――え?
自分以外の誰かの声が綺麗に重なり、汐は思わず目を見開く。そして声のしたほうに首を動かすと、そこには・・・
頭を青い布で隠しているものの、見覚えのある、澄み切った夕暮れ海のような眼がそこにあった。
相手も汐の顔を見て驚いたように目を見開く。そして、
「・・・炭治郎?」
「・・・汐?」
互いが互いの名を呼び合う。その刹那。うれしさのあまり甲高い声を上げながら、二人は小躍りして喜び互いの手を握った。