第142章 譲れないもの<参>
実弥の身体能力は、汐の想像を遥かに超えていた。一見荒々しく見える太刀筋だが、汐が思っているよりもずっと精錬されていたものだった。
しかも、繰り出される剣技の数々は、皆地面を抉るような強力な物ばかりだ。
(な、なんて威力なの・・・。他の連中が吹っ飛ぶわけだわ・・・!)
まるで暴風のような技に、汐は圧倒される。だが、伊之助はその中を必死に搔い潜りながら剣を振るっていた。
(でも、台風で荒れに荒れた海に比べたら、こんなの屁でもない!!)
汐は鍛えられた柔軟と反射神経を駆使し、伊之助同様に嵐の中を進んだ。
中々倒れない二人に実弥は少し驚いたものの、太刀を緩めることはなかった。
よけきれなかったいくつかの打撃が、汐の全身を穿ち痛みが走った。
その時、ひときわ大きな風が巻き起こり、伊之助は抗うことができず吹っ飛ばされた。
残ったのは汐ただ一人。だが、いつその身体が吹き飛ばされるかは時間の問題だった。
しかし、汐には秘策があった。それは、刀鍛冶の里で汐が目覚めた【青の路】
汐は荒れ狂う風の中、神経を限界まで研ぎ澄ませた。
すると、実弥の中心に向かって伸びる青い光が、一瞬だけ見えた。
(見えたッ!そこだぁっ!!)
汐は一気に距離を詰めると、実弥が刀を振るよりも早くその刀身を突き出した。
「っ!!」
木刀の切っ先は実弥の右頬を掠めたが、その一瞬無防備になった汐の腹部に木刀の柄を叩きつけた。
「ぐっ・・・!!」
腹部に強烈な衝撃を感じ、汐の意識は遠のいていくのだった。