第142章 譲れないもの<参>
不死川邸での訓練は、善逸が逃げ出したくもなるような地獄だった。
ここで行われる訓練は、無限打ち込み稽古。その名の通り、実弥に斬りかかるだけという至極単純なものだ。
だが、風柱の称号は伊達じゃなく、斬りかかっていた隊士達は皆竜巻のような彼の剣技に一掃されていた。
(まるで塵みたいに人が吹っ飛んでるわ・・・)
舞い散る隊士達を遠目で見ながら、汐は心の中で合掌した。
よく目を凝らしてみれば、屍と化した善逸と玄弥の姿まである。
すると
「オラオラオラァ!!」
嵐の中から聞き覚えのある声がして、汐は目を見開いた。
そこには、襲い来る猛攻を必死にさばく、伊之助の姿があった。
(伊之助!あいつもここに居たのね!)
また見知った顔に会えた汐は、思わず顔をほころばせた。
「まだまだ行けるぜ!!」
いつの間にか立っているのは伊之助だけで、周りは皆ありとあらゆるものを垂れ流しながら倒れていた。
(伊之助、何だか前よりも太刀筋が綺麗になってない?修行の成果ちゃんと出てるんだ)
汐の思う通り、伊之助の太刀筋は以前に比べて精錬されたものになっていた。
そして常人より関節の可動域が広い彼の動きが、少しずつ実弥を追い詰めていく。
(あたしも負けてらんないわ!!)
汐は意を決して木刀を構えると、嵐の中に突っ込んでいった。