第142章 譲れないもの<参>
「こいつ、町の団子屋の看板娘の事が好きなんだよ。今は柱稽古のせいで会いにいけねえが、この訓練が終わったら会いに行こうなんて考えてたんだろうな」
「おい!!余計なことを言うなよ!!」
匂いの主はさらに顔を赤くさせながら友人に殴りかかるが、彼はそれをひょいとかわして再び笑った。
「お前の言う気持ちに匂いがあるとしたら、今お前が感じてる匂いはきっと【恋】の匂いだぜ」
「えっ・・・!?」
友人の言葉に、炭治郎は呆然として見つめた。二人が何かを言っていた気がしたが、炭治郎の耳には入らなくなっていた。
夜が更け、炭治郎は布団の中でその言葉を繰り返していた。
(恋の匂い・・・。恋ってあれ、だよな。魚じゃなくて、その、相手の事を好きになる、あれの事だよな・・・)
その言葉の意味はなんとなく知っていても、その経験がない炭治郎は匂いの正体に気づくことができなかった。
だが、あの隊士に指摘されて初めて知り、動揺していた。
(もしもあの人の言っていたことが本当なら、汐は・・・、誰かに恋をしているということになる・・・。後鉄火場さんも・・・)
そう考えた後、炭治郎は首を横に振った。
(い、いやいやいや!そんなの当り前だろう!汐も鉄火場さんも年頃の女性だ。恋ぐらいするだろう!)
炭治郎は布団を頭まで引き上げ、目を閉じた。だが、汐が誰かに恋をしているということを考えると、全く眠れない。