第141章 譲れないもの<弐>
「ここに居たのね。はぁ~、やっと見知った顔に会えたわ」
汐は安堵の溜息をついて玄弥を見上げた。
「あ、そう言えばお前は少し遅れて復帰したんだったな」
「そうよ。ここまで来るのに苦労したわ~。いろいろ理不尽な目にも遭ったしね」
汐がそう言うと、遠くからとんでもなく汚い高音が響いてきた。
「ギャア゛ア゛ア゛!!!」
その声に覚えがあった汐と玄弥は、互いを見て顔をしかめた。
「この声って・・・」
「ああ、あいつだよ。ここに来てからずっと叫びっぱなしだ」
玄弥はげんなりとした表情で汐を見、汐もうんざりしたように肩をすくめた。
やがて断末魔が途絶えた後、凄まじい殺気を纏った実弥が姿を現した。その瞬間、玄弥の身体が強張ったのを汐は見逃さなかった。
「てめえは・・・」
実弥は汐を見るなり、ぴくぴくとこめかみを震わせた。
「久しぶり、とでも言えばいいかしら?」
汐は、不快感と敵意を隠そうともせずに実弥を睨みつけた。
「あたし、あんたが炭治郎と禰豆子を傷つけたこと、まだ許してないわよ。ううん、多分、いや、絶対に許さない」
汐が挑発的な視線を向けると、実弥の表情が明らかに変化した。
「でもちょうどよかったわ。あんたのスカした面にまたぶちかませる好機がやってきたってことよねぇ?」
汐の言葉に、実弥の"目"にこれ以上ない程の怒りが宿った。
だが、汐もそれに負けない程の殺意を込めた"目"を向けた。
そんな二人の背後に玄弥は、龍と虎ではなく、二匹の鬼が見えたような気がした。