第141章 譲れないもの<弐>
「いい度胸だァ、クソガキ」
実弥はそう言うと、そのまま踵を返して屋敷の中へ戻った。
「相変わらず腹が立つ男だわ。あれ、あんたの兄貴って本当?」
「あ、ああ・・・」
玄弥はそう言って顔を伏せた。心なしか、"目"に覇気がないように見えた。
「玄弥?どうしたの?」
「何でもねえよ。それより兄・・・、風柱の修行を受けに来たんだろ?さっさと準備にしに行けよ」
それだけを言って玄弥は、屋敷の中へと戻っていった。
(どうしたのかしら、玄弥の奴。"目"にもいつもの元気がなかったわ・・・。それにあいつも、玄弥がいるのにまるっきりいない奴みたいに扱ってたし・・・)
汐はその空気に違和感を感じたが、汐は湧き上がってくる言い難い感情を抑え込むようにして屋敷の門をくぐった。
体中に刺さるような殺気を感じ、汐は生唾を飲み込んだ。
――最後まで足掻け
――心を燃やせ
(上等じゃない。やってやるわよ!)
大切な人の言葉と大切な人の顔を思い浮かべながら、汐は足を進めるのだった。