第141章 譲れないもの<弐>
汐が伊黒邸に来てから五日後の事。
「うおおおおお!!」
汐の雄たけびと、木刀が打ち合う音が訓練場に響く。
障害物の間を縫ってくる攻撃を紙一重で躱しながら、汐も伊黒に向かって木刀を振るった。
汐の太刀筋の正確さは、初めて訓練を初めた時とは雲泥の差とも呼べるほどに上達していた。
どんな位置にいても、障害物がないかのように的確に伊黒を狙ってきた。
そして
「そこだぁっ!!」
汐の攻撃が伊黒の攻撃をかいくぐり、その切っ先が届いた。
「っ!」
伊黒は息をのみ、初めて汐から間合いを取った。だが、その一撃は伊黒の左の部分の羽織を僅かに斬り裂いた。
「くそっ、もう少しだったのに!!」
汐は悔しさに顔を歪ませ、床を拳で思い切り叩いた。
「床に穴をあけるつもりか?」
伊黒の嫌味が籠った声が響き、汐が苦々しい顔で睨んだ時だった。
「訓練は終了だ、大海原」
「へ?」
「聞こえないのか?訓練は終いだと言ったんだ」
伊黒は呆れたように溜息をつくと、木刀を下ろした。
「いつまで呆けた顔で座り込んでいるんだ。さっさと来い」
「え?あ、うん」
汐は慌てて立ち上がると、伊黒の後を追って訓練場を後にした。