第141章 譲れないもの<弐>
蜜璃の元へ来てから二日後。
午前中の訓練を終えた炭治郎は、青い顔で訓練場の床に倒れ伏していた。
(ううっ、股関節が痛い・・・。身体が裂けるかと思った・・・)
炭治郎は蜜璃の地獄の柔軟を受け、その想像を絶する激痛にもだえ苦しんだ。
その痛みがまだ残り、動けないでいたのだ。
(い、いや。汐達だってこの痛みを経験したはずだ。みんなが耐えることができたのに、俺が泣きごとを言ってどうするんだ)
炭治郎は心の中で自分を鼓舞し、残っている痛みに必死で耐えていた。
その時だった。
「カァ~カァ~。炭治郎サンハドコデスカ~?」
窓の外から間延びした鴉の鳴き声が聞こえ、炭治郎は顔を上げた。
そこには、嗅ぎ覚えのある匂いを纏った鎹鴉だった。
「き、君は・・・、汐の鎹鴉の・・・」
「そらのたゆうト申シマス~。たゆうデモイイデスヨ~」
ソラノタユウは間延びした声でそう言うと、足につけられた手紙を炭治郎に差し出した。
「汐カラデス~。訓練、頑張ッテクダサイネェ~」
それだけを言うと、ソラノタユウはそのまま悠然と飛び去った。
炭治郎はすぐさま手紙を開いて中を見た。
(ははっ、字が所々滲んでいる・・・。汐、また墨が乾かないうちに包んだな)
炭治郎は微笑みながらも、汐からの手紙を読んだ。
手紙には近況報告と炭治郎への想い、そして伊黒の愚痴が書かれていた。
汐らしい手紙の内容に、炭治郎は苦笑いを浮かべつつも心が満たされていくのを感じた。
そんな炭治郎を見ていた他の隊士達は、嫉妬と恨みを籠った目を向けていた。
それから暫く、蜜璃邸と伊黒邸を往復する鴉の姿が目撃されたという噂が立った。