第19章 鬼と人と<肆>
「そ、そんな・・・私の鏡が・・・ああああ!!!」
顔から血を流して狼狽する鬼に、汐は冷酷な眼差しのまま刀を突き付ける。
「あんたをぶっ殺す前に聞きたいことがある。正直なところ、あんたみたいな腐った眼をいつまでも見ていたくないから単刀直入に言うわね」
――鬼舞辻無惨について、知っていることを吐いてもらうわ
すると鬼は突然、締め上げられた鶏のような声を上げた。顔は青ざめ、汗は吹き出し、口からは泡を吹いている。
「い、い、言えない。言えないのおおおお!あのお方のことは、何があろうと絶対にいいいいい!!!」
発狂しながら鬼が爪を汐の目に突き立てようと襲い掛かってきた。汐は冷静にその頸を斬り落とすと、刀を鞘に納め小さく息をついた。
(またか・・・どの鬼も、奴のことを聞こうとするとみんな同じ反応をする・・・炭治郎、ごめん)
塵になっていく鬼を見つめながら、汐は張り裂けそうな思いで彼に謝罪の言葉を口にした。
今頃彼らはどうしているだろうか。別れてから数日たっている。さすがにこれだけ離れていると、僅かながら寂しさを感じ始めてきた。
そんな時だった。
「次ノ行先ハァ~。浅草ァ~。東京府浅草デスヨォ~。鬼ガ潜伏シテイルトノ情報デス~」
浅草。東京府の中でも都会と呼べるほどの大きな町。そんな場所に鬼が潜んでいる。それを見逃せば大惨事になることは確実だ。
「ったく。こっちはほぼ休みなしで仕事しているっていうのに。鬼も少しは空気読みなさいよね」
「カァ~。空気ハ~吸ウモノデハナイデショウカ~」
「そういう意味で言ったんじゃないのよ。あんたって時々変なことを言うのね。でも浅草か。話には聞いていたけど、どんなところか少し楽しみかも」
そんな小さな期待を胸に抱きながら、汐は浅草に向けて足を進める。そんな中、汐は大きなくしゃみを一つした。
「誰かがあたしの噂でもしてるのかも・・・」
だがこの時は
――運命が大きく動くことを、彼女たちはまだ知る由もなかった