第19章 鬼と人と<肆>
それから。
汐はたった一人で彼の葬儀を行った。身内が誰もいなかった彼の遺骨は、町の寺に預けることにした。
もちろん、彼女の人形とともに、彼は天へと静かに旅立っていった。
空へ上る煙を見つめながら、汐はそっと目を閉じた。冷たい風が、彼女の両頬をそっと撫でていく。
――にんぎょうにんぎょうつくりましょう
あたまをつけておててをつけて
あんよもふたつつけましょう
きれいなきものもきせましょう
きれいなきれいなおにんぎょう
あなただけのおにんぎょう
透き通る歌声が、風に乗って消えていく。汐の左目からは、一筋の涙がこぼれ地面に黒い染みを作っていた。
そして汐の頭の中に、鱗滝と冨岡の言葉がよみがえる。
――人を鬼に変えることができる血を持つ鬼は、この世でたった一体のみ。
千年以上も前に、一番初めに鬼となったもの。
そして、汐の村を壊し、玄海を鬼に変えたうえ、炭治郎の家族を奪い、禰豆子を鬼に変えた張本人。
その名は・・・
――鬼舞辻 無惨――
「鬼舞辻、無惨」
そいつがこの世のすべての鬼を生み出し、多くの人間の傷つけもてあそび、悲劇を生み出した元凶。
「――反吐以下のくそったれ野郎だわ」
汐の震える言葉も、風に乗って消えていく。ふつふつと湧き上がる憎しみと殺意は、彼女の体を前へ突き動かす。
「神様。どうか、あの二人が今度生まれてきたときは、幸せになりますように・・・」
汐はそっと手を合わせる。この祈りがどうか、彼らの下へ届くように願いながら。
「カァ~カァ~。次ノ任務は・・・」
しんみりする余裕も与えず、ソラノタユウがゆっくりと鳴く。せめて余韻には浸らせてほしいと思ったが、悲しい想いを抱える暇などない。
汐はもう一度空を見上げると、拳を握りしめて歩き出した。