第140章 譲れないもの<壱>
どこからか物音が聞こえ、汐はびくりと体を震わせた。
獣でも迷い込んできたのかと思ったが、音は近くの部屋の中から聞こえてきた。
(な、なに?何かいるの・・・?)
汐の中に恐怖心と好奇心がひしめき合ったが、最終的には好奇心の方が打ち勝った。
汐は気配を殺しながら、音のしたほうへそろりそろりと近寄った。
(確か、この辺から音がしたのよね・・・)
汐は壁に耳をつけると、目を閉じて神経を研ぎ澄ませた。
すると、壁の向こうから微かな物音とうめき声が聞こえてきた。
誰かいる!
汐は音を立てないようにして、そっと部屋の中を覗き込んだ。
部屋の中は暗く、小さなろうそくの光が微かに見える。
その奥では人影が一つ、蠢きながら小さくうめいていた。
「っ!!」
汐は思わず息をのんだ。人影は苦しそうに呻き、そのそばでは長いものが動いているのが見えた。
それが蛇だと認識した瞬間、人影が鋭い声を上げた。