第140章 譲れないもの<壱>
そのまま部屋を出てみれば、月明かりはあまりなく世闇が屋敷を包んでいる。
所謂肝試しには最適の夜だった。
(思ったより暗いわね。善逸がいたら悲鳴を上げて漏らしそう)
汐の脳裏に、涙と鼻水を飛ばしながら泣き叫ぶ善逸の姿が浮かんだ。
(そう言えば、みんなはどうしているかしら。思えばもう何日もみんなと顔を合わせていないわ)
ふと考えてみれば、汐の周りにはいつも炭治郎達がいた。皆個性的で騒がしいところもあるが、いるのが当たり前になっていた。
(みんな元気かな。特に炭治郎。ちゃんと訓練についていけているかしら)
炭治郎なら大丈夫だろうと思う反面、無茶をしているんじゃないかと思うと気が気ではなかった。
(そうだ。蛇男に炭治郎に手紙を出していいか聞いてみよう。稽古には支障は出ないと思うし、それぐらいなら流石に許してくれるわよね・・・)
汐は伊黒に人の心がある事を願いながら、暗い空を見上げた。
その時だった。