第140章 譲れないもの<壱>
しかし、汐は伊黒と何度も手合わせをしているため、彼の太刀筋を知っている。
勿論、伊黒もそれを知っているため、汐の隙を突いた攻撃をしてきた。
「いったっ!!」
汐の攻撃が届く前に、伊黒の太刀が汐の顎を強打した。
「鈍いな。威勢のいいのは口だけか」
「んの野郎っ・・・」
蹲る汐を伊黒がネチネチと責め立て、汐は額に青筋を立てながら立ち上がり木刀を振るった。
結局その日は、張り付けられた隊士に当てることはなかったが、伊黒に一発も当てることができずに訓練は終了。何とか磔にされることはなかったものの、殴打された部分は腫れあがっていた。
「いったたた・・・。あの蛇男、相変わらず容赦ないわね。ったく、みっちゃんもあんな男の何処がいいのかしら」
腫れた部分を冷やしながら、汐は小さく悪態をついた。
伊黒との打ち合いは何度かしているが、今回は障害物があるということであり思い通りに刀が振れず、それだけで別の相手と対峙しているようだった。