第140章 譲れないもの<壱>
皆怯えた"目"をしており、小刻みに震えている。
「悪いけど、あたし、障害物は避けるよりもぶっ壊す方が好きなのよ。だってその方が手っ取り早いじゃない?」
汐がそう言った瞬間、全員の背筋に冷たいものが走った。
青ざめた顔がさらに真っ青になり、今にも失禁しそうな者もいた。
「お前には人の心がないのか?」
「こんなトチ狂った訓練考える奴に言われたくないわ!」
呆れる伊黒に対して、汐は思わず大声を上げた。
「とにかく、あたしはそう言う質だから。障害物と間違ってあんたをぶっ叩いても、文句は言わないでよね?」
汐はそう言って挑発的な目を伊黒に向けた。その目に伊黒は一瞬たじろいだが、鏑丸と共に汐を睨み返した。
「いい度胸だ。そこまで大口を叩けるなら、訓練でその成果を見せてみろ」
それから二人の、(いろいろな意味で)世にも怖ろしい訓練が始まった。
人で作られた障害物の間は、木刀が一本やっと通る程の大きさしかない。
その間をぬって、伊黒の蛇のような太刀が汐を襲う。
反撃をしようにも、障害物となり果てた隊士達が必死の形相でこちらを見るため、まともな精神の人間なら思わずためらってしまい動けなくなる。
しかも、訓練前に汐がとんでもない発言をしてしまったため、恨みを籠った目を向けてくるものもいた。