第140章 譲れないもの<壱>
次の柱の元へ向かう汐だが、その足は明らかに重くなっていた。
(次の柱は蛇男かぁ・・・。できれば顔を合わせたくない奴の一人だけれど)
汐はため息をつきながら、伊黒の屋敷を目指す。そんな気持ちに反して、空は晴れ渡っていた。
「来たか。大海原汐」
屋敷につくなり、伊黒の鋭い視線と冷たい声が汐を出迎えた。
「まさか出迎えがあるとはね。どういう風の吹き回し?」
汐は不快感を隠すこともなくそう言った。
「甘露寺からの文で詳細は聞いている。ずいぶんと楽しそうにしてたみたいだな。だが、俺は甘露寺のように甘くはない」
「あんたね、ひがみもここまでくるとみっともないわよ。全く、みっちゃんが絡むと途端にポンコツになるんだから」
汐は吐き気を催すような表情を浮かべると、伊黒のこめかみがぴくぴくと動いた。
「減らず口を」
伊黒はそれだけを言うと、汐を訓練場へと案内した。
だが、その光景を見て汐は足を止めた。