第140章 譲れないもの<壱>
(ど、どうしよう!無理言ってしおちゃんをここで待たせておけばよかったかしら!?で、でも柱の私情でとどめることは本当はいけないことだし、ああでも、炭治郎君の悲しい顔は見たくないし・・・)
蜜璃が心の中で葛藤していると、炭治郎は突然自分の両頬を打ち鳴らした。
「す、すみません!俺、これから稽古だというのに私情を挟んで・・・。それだけ汐が優秀ってことですよね!流石汐だ・・・!」
だが、そう言う炭治郎の目には涙がうっすらと溜まっていた。
「俺なら大丈夫です。こんなことじゃあ、汐に笑われてしまう。だから、今日からよろしくお願いします!!」
炭治郎の大声に、蜜璃は心臓を撃ち抜かれたような衝撃が走った。
汐が炭治郎を大切に思っているように、炭治郎もまた汐を大切に思っている。それは火を見るよりも明らかだった。
だからこそ蜜璃は、汐が炭治郎に想いを伝えないと言ったことを悲しく思った。
(ううん。あれはしおちゃんが自分の意思で決めたこと。私ができるのは優しく見守る事だけだわ・・・)
蜜璃はぎゅっと目を閉じると、炭治郎ににっこりと笑顔を向けるのだった。
そして訓練が始まり、炭治郎は皆と同じレオタードを身に纏い励んだ。
だが、ふと思ったことがあった。
(汐もこの服を着て稽古をしたんだよな・・・。この西洋式の服は体にぴったりくっついて動きやすいけれど・・・でも・・・)
それは裏を返せば、体の線がはっきり浮き彫りになるということ。
そんな姿を、同じ隊士達とは言えたくさんの人に見られたことを想像すると、炭治郎はもやもやとした奇妙な感覚を感じた。