第140章 譲れないもの<壱>
汐が蜜璃の屋敷を出た次の日。
「こんにちはー!!」
屋敷中に響き渡る元気な声を聞いて、蜜璃の表情が輝いた。
外に出てみれば、にこやかな笑顔を向ける炭治郎がいた。
「炭治郎君久しぶり!!」
蜜璃は満面の笑みを浮かべながら、大きく手を振った。
「おいでませ、わが家へ!!」
炭治郎は蜜璃を見つけると、すぐさま駆け寄り頭を下げた。
「ご無沙汰してます!お元気そうでよかった!」
「炭治郎君もね!」
炭治郎の誠実さに、蜜璃の胸はいつもの通り高鳴った。
「養蜂されてらっしゃるんですね。蜂蜜のいい香りがします」
「あっ、分かっちゃった?そうなのよー!」
蜜璃は嬉しそうに語り、炭治郎は蜂蜜の香りの中に微かに残る汐の匂いを感じた。
「あ、あの・・・、汐は・・・」
炭治郎がそう切り出すと、蜜璃は笑顔を固まらせたかと思うと表情を曇らせた。
「ご、ごめんなさい。しおちゃんは昨日伊黒さんの所へ行っちゃったの」
「・・・・」
炭治郎は呆然とした表情になり、そんな彼を見た蜜璃は大きく顔を歪ませた。