第19章 鬼と人と<肆>
「なにを、おっしゃいますか、鬼狩り様。あなたは救ってくださったじゃありませんか・・・私の孫を、恐ろしいものから・・・」
「!?あんた、まさか・・・!」
汐は驚愕に目を見開いた。そして彼の眼をまじまじと見つめる。彼は気づいていたのだ。自分の孫が、鬼と化していたことを。
――そして、彼女を【救って】くれるものを、ずっと待っていたことを・・・
「わたし、は、あの子に、何もしてやれません、でした。あの子を救う、ことも、ずっと、苦しんでいた、ことにも、気づくことができなかった、祖父失格の、男です・・・」
「そんなことはない。そんなことはないわ。耳をかっぽじってってよく聞いて」
汐はぎゅっと強く彼の手を握った。そしてしっかりと彼の眼を見据えて口を開く。
「あんたの孫は、あんたのことをずっと思っていた。そうでなかったら、あの人形を、あんたの作品をああしてずっと持っていたわけがない。それに、あたしちゃんと聞いたのよ。あの子の、最期の言葉を・・・」
――おじいちゃん、大好きだよ
汐は彼女の【声】をそのまま彼に伝えた。不謹慎であることは承知していた。けれど、少しでも彼女の気持ちを彼にそのまま伝えたかったのだ。
右衛門は目をこれ以上ない程大きく見開くと、その目からは大粒の涙がこぼれだす。そしてそっと両手を空へを上げながら嗚咽を漏らした。
「ありがとう、ありがとう。もうこれで、思い残すことは、ありません。本当に、あり、が、とう・・・」
その言葉を最後に、彼の腕はゆっくりと地に向かって落ちていった。どこか遠くで、鴉の鳴く声が聞こえた気がした。