第139章 千里の道も一歩から<肆>
「その事なんだけど、みっちゃん。前にあたしに用意してくれた【すみつ】って奴を用意してくれない?」
「えっ!?」
「前に刀鍛冶の里に行った時に、蜂蜜入りのかりんとうが食べられたでしょ?もしかしたら蜂蜜なら食べられるかもしれないって思ったの。それに、せっかくみっちゃんが手塩にかけて作った物だもの。一度ちゃんと食べなきゃって思って」
汐の言葉に、蜜璃の胸が大きく音を立てた。嬉しくて嬉しくて、言葉が出なかった。
「しおちゃん・・・、ありがとう。わかった。あなたの為に、一番おいしい巣蜜を用意するわ!」
蜜璃は高らかに言うと、鼻歌を歌いながら台所へと向かった。
それからしばらくして、汐の前には巣蜜が乗ったパンケーキが運ばれてきた。
汐の味覚に考慮して、パンケーキ自体は甘さ控えめにしてあるという。
黄金色に輝く巣蜜を見て汐はごくりと唾をのんだ。
おいしそうだから、ではない。これからの戦いに備えての事だ。
漂う蜂蜜の香りに、汐はかつての事を思い出していた。
初めてこの屋敷に来たときは、充満する蜂蜜の匂いに当てられて、しばらく厠から出られなかった。