第19章 鬼と人と<肆>
その後汐は残っていた人形を手に右衛門の元へ向かった。依頼を達成することができなかった彼女は、沈痛な面持ちで扉を開けた。
右衛門は寝床に横たわっていた。が、様子がおかしい。よく見ると顔は真っ青で息も荒く一目で危ない状態だと分かる。
「おじいさん!!」
汐は叫んですぐに駆け寄った。体中からは汗が吹き出し、目の焦点もあっていない。
しかし彼は汐の姿を認識すると、荒い息のまま口を開いた。
「鬼狩り、様・・・孫は・・・孫娘は・・・」
汐は無理にしゃべるな、と言いたくなったが、彼の手に彼女の人形をそっと握らせた。
「ごめんなさい。これだけしか、助けられなかったの・・・」
汐は半分の真実を告げた。告げることができなかった。孫娘が鬼となり、多くの人間を傷つけていたことを。
せめて、彼の思い出の中の孫娘のまま逝かせてやりたいと思ったからだ。
しかし右衛門はにっこりと心の底からうれしそうに笑った。