第138章 千里の道も一歩から<参>
その夜。
「あー疲れた」
汐は敷かれた布団に大の字に寝転がりながら呟いた。
今日は一日素振りだけで終わってしまったが、それが決して無意味ではないことは経験上知っていた。
(宇髄さんのところで体力が戻ったとは思ったけれど、腕に結構来てるわね。けど、こんなところでへこたれてらんないわ)
汐はそのまま起き上がると、気合を入れるように両頬を叩いた。
稽古はまだ始まったばかり。明日の朝に備えて、今日はもう寝ようと思った時だった。
「汐、起きてる?」
突然声を掛けられ、汐は小さく悲鳴を上げて飛び上がった。
振り返ってみれば、無一郎が汐の後ろで立っていた。
「あ、ごめん。驚かす気はなかったんだけど・・・」
「び、びっくりしたわ。あんた、全然気配ないんだもの。善逸じゃないけれど、心臓が口からまろび出るところだったわ」
汐の言葉に、無一郎は申し訳なさそうに眉根を下げた。
「それより、こんな時間にどうしたの?柱のあんたがここに居るのはいろいろとまずいんじゃないの?沽券とか・・・」
汐がそう言うと、無一郎は首を横に振りながら答えた。
「今は柱じゃなくて、僕個人として君と話がしたいんだ。駄目、かな?」
無一郎の"目"には、からかいの意思など微塵もない。これはただ事ではないと察した汐は、深くうなずいた。