第138章 千里の道も一歩から<参>
ここでの訓練は体さばきを鍛える高速移動。
まずは素振りをし、その後は打ち込み台を使った打ち込み稽古。
それをこなした後、無一郎との手合わせを行うというものだ。
準備が整った汐は、さっそく素振りから訓練を開始した。
(この感覚、懐かしいわ。鱗滝さんのところでの素振り地獄を思い出す・・・)
あの時汐は、玄海から刀を使った訓練を施されていなかったため、一から鍛えなおされていた。
一日でした素振りの回数は、おそらく一万回は近かったような気がする。
(でも、あの時は炭治郎がいたからどんな辛い修行も耐えてこれた。ううん、今もそう。炭治郎が笑顔になれるなら、あたしはなんだってできるのよ)
汐は素振りをしながらも、炭治郎の事を思い浮かべた。あの一番好きな"目"を思い出しながら。
(そう言えば炭治郎。そろそろ復帰する頃よね。ちゃんとこなせているのかしら・・・)
汐がそんなことを考えていると、油断したせいか汐の手から竹刀がすっぽ抜けてしまった。
「あっ!」
汐が気づいたときには、竹刀は無一郎の足元に転がっていた。
「汐」
無一郎は竹刀を拾うと、汐にそっと差し出しながら言った。
「駄目だよ、ちゃんと集中しないと。注意散漫は怪我の元になるんだから。そう言うのは君が一番わかっているはずなんだけどな」
無一郎の優しい声に、汐は驚くが表情を緩めて言った。
「ありがとう、ごめんね。そうね。集中しないと!」
汐は無一郎から竹刀を受け取ると、再び素振りを開始した。
一心不乱に竹刀を振る姿に、無一郎は目を見開いた。
少し粗削りが目立つが、その太刀筋には迷いがない。
今までたくさんの人の訓練を見てきたが、汐にはなぜか他の者にはない何かを感じた。