第138章 千里の道も一歩から<参>
宇髄邸を出た汐が向かっているのは、無一郎のいる時透邸。
「あっ、汐!久しぶり!」
着くなり笑顔で出迎えてくれた無一郎に、汐は表情を固まらせた。
「何だかいろいろあったって噂で聞いたけど、大丈夫?」
「え、ええ。大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
にこやかな笑顔で言う無一郎に、汐はぎこちなく笑いながら答えた。
記憶が戻り、本来の優しい性格を取り戻したのだが、以前の無一郎を知っている汐はその変貌に未だに慣れなかったのだ。
(記憶が戻る前は腹立つ奴って思ってたけど、これはこれでちょっと難しいかも)
汐は稽古をつけられていないのにもかかわらず、何故かどっと疲れるのだった。
汐が稽古場へ行くと、打ち込み台にひたすら稽古をしている隊士達がいた。
皆長い間いるのか、顔に覇気がない。
辺りを見回しても、見知った顔は一人もいなかった。
「荷物を置いたらすぐに来て。詳細を説明するから」
無一郎に言われ、汐はすぐに荷物を指定の場所に置きに行った。