第137章 千里の道も一歩から<弐>
思えば、カナヲは生い立ちのせいで自分から動くことがほとんどできず、指示をされていない事は銅貨を投げて決めていた。
それが、汐や炭治郎達と出会ってから、カナヲは心身ともに大きく成長した。
汐が記憶をなくした時、初めてカナヲから直談判をされたときは本当に驚き、そして嬉しかった。
「カナヲも随分、自分の気持ちを素直に言えるようになりましたね・・・。いい兆しです」
その時と同じように、自分の気持ちを素直に言えるようになったカナヲを見て、しのぶは一つの決心をした。
「やはり、良い頃合いだわ」
「?頃合い?」
カナヲが尋ねると、しのぶは表情を引き締めて言った。
「カナヲ。これから私の話すことをよく聞くのです」
「えっ、は、はい」
いきなり何を言い出すんだろうとカナヲの表情が不安げになる。
「私の姉、カナエを殺した、その鬼の殺し方について話しておきましょう」
驚くカナヲをしり目に、しのぶはその鬼の特徴を事細かに話し出した。
そして、その鬼を倒すための手段を。
その話は数十分続き、話を終えたカナヲは青ざめた顔で部屋を後にした。
(そんな・・・。そんなことって・・・)
カナヲは激しく脈打つ心臓を、ぎゅっと握りしめるように隊服を掴んだ。
(でもこれは師範が、しのぶ姉さんが決心した事。そして、私との約束・・・)
カナヲはぎゅっと目を閉じた。浮かぶのは炭治郎と、汐の顔。
(私、ちゃんとやれるかな。ねえ、炭治郎、汐・・・)
カナヲの小さな心のつぶやきは、誰の耳にも届くことはなかった。